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原発事故後の風評被害は国と東京電力の「共同不法行為」と考えられないか [原子力災害]


原発事故後、様々な業種で風評被害が深刻であった。今年7月、牛肉から規制値を超える放射性物質が検出され、これをきっかけに牛肉の買い控えが広がり、農家や食肉業者に大きな被害が生じたことは顕著な例であった。

放射性物質に汚染された稲わらを牛に与えたことが原因とされるが、農林水産省は稲わらが放射性物質に汚染されるおそれがあることを原発事故直後にすでに認識していた。同省は3月19日、「畜産農家の皆様へ」と題する書面で、事故発生前に刈り取った飼料を使うようにとの指示を出している。しかし、この通知は農家に十分伝わらず、指示の内容が徹底されなかったし、農林水産省などによる確認や調査もされなかった。その結果、事故後に収集された高濃度の放射性セシウムを含む稲わらが広域に流通する事態となった。

そこで、稲わらに関する国の行政指導が不徹底であったことを理由に、風評被害を受けた農家は国に対し、国家賠償法に基づいて損害賠償を請求することができるであろうか。

ここで問題になるのは、原子力損害の賠償に関する法律(原賠法)が採用する「責任集中の原則」である(同法4条)。この問題に関しては昨日のブログ記事で説明したが、原子力損害については東京電力のみが責任を負い、国は一切責任を負わず、国家賠償法の適用が排除されるという仕組みになっている。

しかし、この牛肉の事例を見てわかるとおり、風評被害は事故発生後の国の行政指導の不徹底によって生じたものである。もちろん、原子力事故が起因になっていることは否定できないが、国が指導を徹底していれば生じなかった損害といえる。そうであれば、この風評被害は、原賠法3条がいう「原子炉の運転等の際に」に生じたものとは言いがたく、原賠法が適用される損害からはずれると考えることができよう。

そうすると、責任集中の原則等を採用する原賠法が適用されず、国家賠償法を適用して国に風評被害に伴う損害の賠償を請求できる余地が発生する。この場合、東京電力にも原発事故の発生に過失が認められれば、国と東京電力の「共同不法行為」として両者ともに風評被害について責任を負うことになろう。

共同不法行為と捉える考え方にはいくつかの問題が残るため、すべて上手く説明できるわけではない。しかし、原賠法によって国が一切免責される仕組みの中で、国の責任を明確にできる一つの有力な考え方になるのではないか。

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