SSブログ

「菅首相を裁判にかけ、死刑」とまでは言わないが、悔しく情けない思いが残る [原子力災害]


東京電力福島第一原発事故について調査してきた「福島原発事故独立検証委員会」は一昨日、約400ページに及ぶ報告書を発表した。この報告書で明らかになったことの一つは、当時の菅直人首相の事故対応が「不合格」だったことである。自民党の溝手顕正参院幹事長は「後進国だったら(菅氏を)裁判にかけ、死刑という話につながりかねない」と痛烈に批判した。

官邸の事故対応がもっと適切であれば、多くの住民の方々が避難を強いられているという現状は回避できたであろう。1999年に起きた東海村JCO臨界事故を契機に原子力安全委員会の機能を強化し、原子力災害時のマニュアルを作成したり、SPEEDIと呼ばれる「緊急時迅速放射能影響予測ネットワークシステム」を構築したりして原子力事故の対応に万全を期したはずであった。しかし、当時の菅首相や政治家はマニュアルの存在や内容を把握していなかった。福島原発事故前には菅首相がSPEEDIを使って訓練したにもかかわらず、SPEEDIに気づいたのは事故発生から4日後である。原子力事故に備えて構築したシステム、マニュアル、訓練は、残念ながら福島原発事故では全く活かされなかった

菅氏を個人攻撃するつもりはない。しかし、報告書から浮き彫りになるのは、政治家の危機意識の低さ、政権交代したばかりの民主党の経験不足、そして、誤った政治主導による政治家と官僚とのチームワークの乱れである。原発事故が東京電力のみならず政治家による「人災」とも言うべき側面が明らかとなった。もし当時の首相が菅氏でなかったら福島の方々がここまで辛い思いをしなかったのでは、と思うと、ただ悔しさが残る。

なお、この報告書を作成するに当たり、菅氏などの政治家、原子力安全保安院、原子力安全委員会、官僚関係者などの約300人から事情を聴取しているが、当時のやり取りを記した議事録などの資料に基づいて報告書は作成されていない。なぜなら、政府は福島原発事故直後の対応状況を記した議事録を作成しなかったからだ。アメリカ政府は福島原発事故後10日間の対応状況をすべて録音し、これを反訳して約3000ページに及ぶ議事録を作成、公表している。これに対し、日本政府は議事録の作成を怠ったため、当時の状況を正確に検証することができない。何とも情けない。

IMG_4295.JPG