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なぜ外国公務員贈賄事件がわずか2件しかないのか?日本の捜査機関の取り組みが不足しているか [犯罪・事件]


パリに本部を置くOECD(経済開発協力機構)は、日本に対して「ある程度の進展は見られるものの、執行状況には依然として重大な懸念が残る」と厳しく批判した。何について批判しているのであろうか。OECDの「外国公務員贈賄防止条約」に加盟している日本が、どの程度、条約を適切に執行しているか審査した結果が発表され、上記のように日本の執行状況が酷評されたのである。

この条約には日本を含む33カ国が署名し、1999年2月に発効。日本では条約を履行するため不正競争防止法の中で「外国公務員贈賄罪」(同法18条)が新設され、条約と同時に施行された。それから10年以上が経ったが、外国公務員贈賄罪で起訴され有罪判決に至った事件はわずか2件のみ。OECD加盟国中、米国に次ぐ第2位の経済大国であり、日本企業の多くが海外で事業展開している現状に鑑みると、わずか2件では日本が条約を適切に執行しているか重大な懸念が残る、とOECDは判断した

ちなみに、条約発効後から2010年12月までに各国がOECDに報告した外国公務員贈賄罪による処罰者の人数は、多い順にアメリカ48人、ドイツ30人、ハンガリー27人、イタリア21人、韓国13人、と続く。このような外国の状況と比べると、日本では外国公務員贈賄事件の探知や捜査に積極的に取り組んでいないのではないか、と疑念を抱かれてもやむを得ないのかもしれない。OECDは過去に「日本の検察官は、不正競争防止法のような特別法に規定されているために外国公務員贈賄罪の存在を知らないのではないか。同罪を刑法に移すべきだ」と勧告したこともあった。

しかし、最近の状況は異なっている。日本の検察官の多くが外国公務員贈賄罪を十分に認知しているし、国際法務を担当する弁護士は、セミナーや講演会、または日頃の顧問会社との会合の中で、外国での贈賄のリスクを強調しており、この点は、OECDの審査結果でもプラス面として評価されている。その結果、日本企業のコンプライアンス意識も高まり、日本企業が外国で賄賂を贈るという事態は、刑罰の対象とならない手続迅速化のための小額の金銭供与などを除き、ほとんど起きていないのではなかろうか

日本は外国公務員贈賄事件の探知、捜査、訴追への取り組みを強化すべきだ、とのOECDの勧告には謙虚に耳を傾けるべきである。しかし、事件数が少ないことが贈賄防止法の執行状況が低調であることを必ずしも意味しない。もし日本企業が外国で贈賄を行えば、当該外国では収賄をした公務員が逮捕・起訴され、日本企業の贈賄も明るみになる。このような事案は全くないわけではないが、新聞などで報道でもあまり聞かない。また、日本企業の多くは米国や英国に支店などを有するため、米国や英国の賄賂防止法の適用を受けるが、両国の法によって訴追された日本企業は、私の知る限り1,2件である。

確固たる実証データがないため、外国公務員贈賄事件が少ない理由が、日本の捜査機関の取り組みが不十分なためなのか、日本企業が法を遵守しているためなのか、定かではない。OECDは2年後に改めて日本の条約執行状況を評価する予定である。そのとき、後者の理由で日本では外国公務員贈賄事件が少ないとの結論が出されることを願う。

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Ceongsu

Hiro先生、いつもブログ拝見させていただき、勉強させていただいております。なんとなくですが、まだまだ日本は諸外国に比べて、そもそも外国の公的機関へのビジネス参入が遅れているのと、日本企業の社内決裁に関する構造的に、諸外国の企業よりも担当者に決裁権がないのも、贈賄の立件数が少ない要因の気もいたします。なのでHiro先生の言うとおり、執行件数が少ないことで批判されるのは、少し違う気も現在はいたしますね。
今後とも勉強させていただきます。
by Ceongsu (2012-07-11 09:17) 

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