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“忘れられる権利”の提唱。人は忘れても、デジタルの世界は忘れないから問題だ [社会]


EUで今年、ネット上のプライバシーの権利が新たな幕開けを迎えたことをご存知であろうか。「忘れられる権利」(the right to be forgotten)という新しい権利が提唱され、これを法制化しようとする動きが見られるのだ。人は「忘れる」生き物であるが、デジタルの世界ではデータが消去されない限り半永久的に情報が残ってしまい「覚えられている」。これがいま、さまざまな問題を引き起こしており、ネット上で「忘れられる」ことを求める権利が注目されている。

EUは個人データを保護するため1995年に「EUデータ保護指令」を採択し、当時としては最も厳格な水準の国際的枠組みを提示していたが、その後、急速にインターネットが普及し、データ保護指令では十分に対処しきれない状況になった。そこで、EUはこれを全面的に見直し、今年1月に「EUデータ保護規則」案を公表した(なお、「指令(directive)」から「規則(regulation)」に法形式が変わったが、「規則」の場合はその制定により自動的にEU各国の国内法の一部となり、国内立法を必要とせずに直接適用されることとなる)。

このEUデータ保護規則案の第17条で「忘れられる権利」が新設された。これまでもネット上の個人情報の消去を求める権利(消去権)は認められていた(データ保護指令12条)。しかし、忘れられる権利は、単なる消去権を超え、データそのもののみならず、あらゆる関連データや複製をも消去するための合理的な措置を講じるようデータ管理者に対して要求できる権利である。自己の個人情報をコントロールしプライバシーを守ろうとする目的がより徹底される内容となっている。

例えば、次のような事例が紹介されている。オーストラリアに住む学生がSNS大手のフェイスブックに掲載した自己の個人情報を消去して欲しいと要求したが、彼のデータはアイルランドで保管されているため、アイルランドに拠点を置くフェイスブックに消去を求めなければならず、自己の情報をネット上から忘れさせることが困難であったという。

このような問題はEU域外でも起こりうる。例えば、日本でもフェイスブックなどSNSは人気を博しているが、そこに書き込んだ自己の個人データが、どの国でどのように管理・保管されているか、知っているSNS利用者はどれほどいるであろうか。また、アメリカでは、学生がSNSに掲載した個人情報が大学の合否判定や企業の採用材料に利用されるケースが報告されているが、同じようなことは日本でも起きていると思われる。

情報流通がグローバル化する中、ネット上のプライバシー保護のためには国際的な枠組みの構築が必要である。アメリカも、EUと競争するかのように、ネット上のプライバシー保護に真剣に取り組んでいる。今年2月、「消費者プライバシー権利章典」(the Consumer Privacy Bill of Rights)を発表し、アメリカにおいて発展してきた公正な情報慣習の原則を7つの権利(人権)として具体化している。しかし、プライバシー保護の法制は、その国の文化や社会規範によって在り方が決定されるため、EUとアメリカの個人情報保護の対応は必ずしも一致を見ない点がある。

日本でも「忘れられる権利」を含めたプライバシー保護の強化が必要なのは言うまでもない。日本は、プライバシー保護の国際的な潮流から取り残されることがないようEUやアメリカの動向を注視し、各国・地域のプライバシー法制度を比較検討しながら日本として進むべき道を追求しなければならない。

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