SSブログ

木嶋被告は寺田さんと安藤さんを殺害したか。合理的な疑いが残らないか【連続不審死事件その7】 [裁判]


首都圏で2009年に起きた男性3人の連続不審死事件で、殺人や詐欺などの罪に問われた木嶋佳苗被告の裁判員裁判は一昨日(13日)、弁護人の最終弁論と木嶋被告の最終意見陳述を終え結審。裁判員らは評議に入り、判決は4月13日午前10時に言い渡される。

検察側は、木嶋被告が大出さん、寺田さん、安藤さんの3人をそれぞれ練炭自殺に見せかけて殺害したとして死刑を求刑したが、弁護側は最終弁論でいずれも無罪を主張した。

まず、寺田さんの死亡について、検察側の言うとおり「自殺ではなく他殺であり、寺田さんを殺害した犯人は木嶋被告である」と認定するだけの十分な証拠があるか、疑問が残る。例えば、寺田さんのマンション室内から発見されたコンロは、和室や台所など複数の場所にばらばらに配置されていた。練炭自殺に見せかけて殺害しようとするならば、犯人は寺田さんのすぐ近くにコンロを置くはずであり、そうしないと一酸化炭素が致死量に達するまでに寺田さんが目を覚ましてしまうおそれがある。寺田さんが殺害されたとすれば、この点をどのように説明するのであろうか。むしろ、弁護側が言うとおり、寺田さんができるだけ苦しまずに死にたいという思いから、あちこちにコンロを置いたという可能性は否定できまい。

また、検察側は寺田さんの死亡日を2009年1月31日とするが、司法解剖がされていないため、実はこの点がはっきりしない。弁護人は最終弁論で、寺田さんの遺体の腐敗状況に触れ、遺体の下に敷かれていたホットカーペットの熱の影響を考慮することが重要であると主張している。仮に死亡日が2月1日以降であれば、木嶋被告は1月31日早朝に現場を離れているので、木嶋被告の犯行はあり得ない。寺田さんの死亡日を検察側が主張する1月31日と認定できなければ、木嶋被告が殺害したとの検察側の構図は根底から崩壊する。

さらに、警察が寺田さんの遺体発見後に練炭やコンロを押収しなかったことから、寺田さんのマンション室内にあった練炭等は寺田さん自身が購入した可能性も明確に否定できないであろう。

このように、証拠を総合的に勘案すると、寺田さんが自殺したとする弁護側の主張を完全に否定することは難しいのではあるまいか。

次に、安藤さんの死亡についても、「自殺や失火による死亡ではなく他殺であり、その犯人は木嶋被告である」と認定するだけの十分な証拠があるか、疑問が残る。弁護側は、安藤さんがタバコの不始末による火災で死亡したと主張。これに対し、検察側は、火災が起きる前に一酸化炭素中毒で死亡していたと主張し、その理由の一つに安藤さんの気道にすすが付いていないことをあげる。しかしこの点は、安藤さんの自宅の火災で実際にどの程度すすが出たか分からないため、正確に判断しようがない。他方、安藤さんの気道には奥までやけどがあった。これは火災で生じた高温の空気を安藤さんが吸い込んだためと考えられ、そうであれば、火災時には安藤さんは生きており、その前に一酸化炭素中毒で死亡していたとは言えなくなる

また、安藤さんがいた4畳半の部屋にタバコの吸い殻や灰皿がなかったからといって、タバコの不始末を必ずしも否定できない。安藤さんは灰皿がなくても喫煙していたし、吸い殻は火災により燃え尽きたり、消火活動のさなかにどこかに行ったりした可能性もある。

さらに、木嶋被告が安藤さんのカードを無断で使用したか、安藤さんの絵画を無断で持ち出したか、安藤さんの自宅から発見された練炭が木嶋被告が購入した練炭と同一かどうか、安藤さんの事件だけ火災が起きているのはなぜか、これらの争点について明確に判断するだけの証拠があるか、疑問である。

このように、安藤さんについても、証拠に照らして勘案すると、タバコの不始末による火災が原因で死亡したとする弁護側の主張を完全に否定することは難しい状況ではなかろうか。

最後に、大出さんの死亡については、このブログの【連続不審死事件その5】及び【連続不審死事件その6】で述べたとおり、大出さんが木嶋被告によって殺害されたと認定するだけの十分な証拠がそろっているとみることができよう。しかし、睡眠薬を飲ませて大出さんを眠らせ、練炭に火を付けて殺害したとする検察側の筋書きの中で最大の難点は、大出さんがどの時点で睡眠状態になったか、ということだ。仮に大出さんが自宅で睡眠状態になったとしたら、どうやって大出さんは車まで行ったのか、うまく説明できない。木嶋被告が大出さんを担いで運ぶことは考えられないし、引きずって運んだ痕跡もない。検察側は、大出さんを朦朧とした状態にさせて車まで歩かせた可能性があると主張するが、「可能性」では何ら説得力がないし、睡眠薬を飲ませてタイミングよく朦朧状態を作り出し歩かせるのは至難の業と言うべきではなかろうか。裁判員らは、この点をどのように評価するであろうか。この問題点をうまくクリアできないと、大出さんに対する殺人も合理的な疑いが残り、無罪になる可能性がある

殺人3件について有罪となれば、いわゆる最高裁の永山基準によって木嶋被告に死刑が科せられることになろう。裁判員らは、被告人の命にかかわる重大かつ困難な判断が求められている。注目の判決は1か月後に言い渡される。

裁判員選ばれる前にこの1冊カバー+オビ.jpg
nice!(0)  コメント(0)  トラックバック(0) 

nice! 0

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

トラックバック 0