地震で自宅のバルコニーが落ち、隣家に傷がつきました。弁償すべきですか? [建物・土地]
【Q】東日本大震災のとき、私の住む地域では震度5の揺れを観測しました。地震のため私の自宅のバルコニーが落ち、隣の家の壁に傷がつきました。地震が原因であっても修理費などを弁償しなければなりませんか?
【A】震度5以下の地震で住宅のバルコニーが落ちた場合、通常要求される安全性を備えていたとはいえないため、たとえ地震が原因であっても、建物の所有者である「私」は修理費などを弁償しなければなりません。
〔ちょっと解説〕
地震で建物の一部(屋根やバルコニーなど)が落ち、隣の家を傷つけたり他人の自動車を壊したりした場合、民法717条の「工作物責任」が問題になります。
工作物責任とは、建物など土地の工作物の設置や保存の仕方が悪くて他人に損害を与えた場合、その工作物を所持している人(占有者)または所有している人(所有者)は損害賠償責任を負うというものです。損害賠償責任は、まず最初に工作物の占有者が負いますが、もし占有者が損害の発生を防止するために必要な注意をしていたときは、次に工作物の所有者が責任を負います。所有者の場合は、工作物の設置や保存の仕方が悪いといえるならば、自分には何ら落ち度がなくても損害賠償責任を負います。
上記の例で、建物の一部であるバルコニーは土地の工作物です。そして、「私」はバルコニーを含む建物全体の占有者であり所有者でもありますから、結局、所有者として工作物責任を負うか検討することになります。そして、バルコニーの設置や保存の仕方が悪いといえるならば、たとえ地震が原因であっても損害賠償責任を負い、修理費などを弁償しなければなりません
さて問題は、バルコニーの設置や保存の仕方が悪かったかどうかです。設置や保存の仕方が悪いというのは「通常要求される安全性を備えていない」という意味です。バルコニーが通常要求される安全性を備えていたにもかかわらず、大地震によってバルコニーが落ちた場合には、所有者である「私」は損害賠償責任を免れます。
そこで、さらに問題になるのは、どの程度の大きさの地震に対して安全対策を施していれば、通常要求される安全性を備えていたといえるか、という点です。これを明確に答えるのはとても難しいですが、これまでの裁判例や建築基準関連の法令を参考に大雑把に言えば、震度5程度の地震にも十分に耐えられる安全性を備えていれば、通常要求される安全性を備えていたといえるようです。ですから、震度5以下の揺れでバルコニーが落ちた場合、通常要求される安全性を備えていたとはいえず、損害賠償責任を負います。これに対し、震度6以上の揺れでバルコニーが落ちた場合、通常要求される安全性を備えていても防ぎようがなかったわけですから、不可抗力によるものとして損害賠償責任を免れます。
上記の例では、震度5の揺れでバルコニーが落ちています。したがって、バルコニーが通常要求される安全性を備えていたとはいえず、「私」は損害賠償責任を負います。
このように、「震度5」で線引きをし、震度6以上の場合には免責されるというのが、従前からの一般的な考え方です。しかし近年、震度6以上の地震が日本で頻繁に起きています。震度6以上の地震が予測不可能とはいえない状況にあるので、震度6以上の地震にも耐え得る安全性を備えるべきだと考えることもできるでしょう。もしこのように考えるのであれば、例えば震度6の揺れでバルコニーが落ちた場合でも、損害賠償責任が生じうることになります。
どの程度の大きさの地震に対して安全対策を施していれば、通常要求される安全性を備えているといえるか?この問題は原発事故でも問われています。みんなで考えなければならない問題でしょう。
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2011-07-03 06:41
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