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“債務の株式化”という再建手法で被災企業は本当に救済されますか? [被災企業の支援]


【Q】政府は、“債務の株式化”によって被災企業の再建を支援しようと考えていますが、この手法によって被災した多くの中小企業が本当に救済されるのですか?

【A】被災企業が“債務の株式化”後に確実に再建するとの見込みがなければ、この手法を使うメリットはありません。ですから、再建の確実性が認められる被災企業だけが支援の対象になり、多くの被災企業が支援を受けられない事態になるかもしれません。


〔ちょっと解説〕

 前回、政府は“債務の株式化”という手法により被災企業を支援しようとしているとお話しました。債務の株式化によって借金が免除されるという借り手側(被災企業)のメリットはすぐに理解できます。では、貸し手側(金融機関から貸付債権を買い取った再生ファンド)には何かメリットがあるのでしょうか?

 再生ファンドが、仮に債務の株式化によらず被災企業の借金を免除すれば、純粋に再生ファンドに損失が生じ財産を失うだけです。前回の例で言えば、再生ファンドが代金1000万円を払ってB銀行から買い取った貸付債権を丸ごと失うわけですから、1000万円の損失が生じます。これに対し、債務の株式化の手法をとった場合、再生ファンドは貸付債権を失いますが、その代わりA会社の株式1000万円分を手に入れます。つまり、再生ファンドはA会社の株主になるのです。そして将来、A会社がきちんと再建して利益を生み出せば、再生ファンドに利益が配当されます。また、A会社の株価が上昇すれば、再生ファンドはA社株を他人に売って売却益を得ることができます。このように、債務の株式化は、単純な債権放棄と比べて貸し手側にもメリットがあるのです。

 しかし、このメリットは、被災企業がきちんと再建した場合に限り期待できます。もし被災企業が再建に失敗したら、利益配当も株式の売却益も生じません。再生ファンドが株式を有しているといっても、結果的には再生ファンドに損失が生じてしまうのです。再生ファンドは、経済産業省所管の独立行政法人である中小企業基盤整備機構や地方自治体などからお金が拠出されます。つまり、国民のお金が投入されるのです。再生ファンドに損失が生じることは、“国民の負担”が増すことを意味します。

 ですから、再生ファンドは、国民の負担を回避するため、確実に再建すると見込まれる被災企業に限って債務の株式化による支援を実施することになるでしょう。しかし、地震や津波の被害を受けた地域では、たとえ被災企業そのものは工場などを再開して事業を行うことが可能であっても、取引先の会社がまだ閉鎖していたり破たんしたりして二次的な損失が発生する恐れがあります。いまの段階で再建できるかどうか見極めることは非常に困難であり、再建可能な企業かどうかの線引きが大きな課題となるでしょう。この線引きを厳しくしてしまうと、支援を受けられる企業がかなり限定されてしまい、被災地の復興になりません。かといって、線引きを甘くしてしまうと、結果として企業再建できなかった場合に国などに損失が膨らみ、最終的に国民に付けが回ってきます。

 “債務の株式化”は巧妙な企業再建手法ですが、大震災という非常事態においても被災企業を本当に救済できるのか、大きな課題も残されています。


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